第10回 教師の役割と影響
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1. 教師の仕事
アクター
教育的意味のある授業運営を円滑に進める
デザイナー
児童生徒の実態を踏まえつつ投業のねらいの達成のために内容・方法・教材を組み立てていく
エバリュエーター(評価者)
実践の意味や成果をねらいに基づき解釈し次の活動へ活かしていく
教師の仕事は, 授業に関連することだけではなく、多岐にわたっている
生徒指導,部活動の指導,校内分掌の仕事,会議, 書類仕事, 保護者対応, 地域との連携……あらためて数え上げると, きりがないほど多様な仕事を教師が担っていることに気づくだろう
藤田・秋葉・油布・酒井(1995) は教師の職務内容にアプローチするために、ある教師の仕事場面に密着して記録をとるというスタイルの調査を行った
教師の仕事が授業以外に多様な内容の業務を同時並行的に遂行している
同僚との共同作業が多い
書類書き等デスクワークの比重がそれなりに高い
教師の仕事の中核は子ども達との直接的関わりを通してその育ちを支援すること
知的発達の促進や身近なモデルとしての機能以外にも、教師は意識的・無意識的に子ども達の育ちに様々な影響を与えている
2. 教師が与える子どもへの影響
2-1. 教師期待の効果
教師が期待する方向に児童生徒の学業成績や学級内行動が変容する教師期待効果 ある小学校で知能検査を行い,無作為に選択した特定の子どもについて成績向上の可能性が高いという結果が出たと伝えた その後実際に選択された子ども達の知能検査成績が向上したという結果を報告している
背景として主張されていること
教師が伝えられた知能検査の結果を信じて「この子はきっと成績が向上するはずだ」 という期待をこめた対応をし,
子ども達も教師からの期待を察知して学習意欲が上がり,
結果として成績向上につながった
児童に対する教師の期待が児童の学業成績の原因帰属に及ぼす影響を検討 ピグマリオン効果のような教師の期待が実現する自己成就的予言機能ではないが, 子ども達への評価に対する教師期待の効果の存在を示唆 教師からの期待が高い児童
高成績は内的要因(能力や努力)に
低成績は外的要因(テストの困難度や運)に帰属される
2-2. 教師のリーダーシップ
教師は個々の子どもとかかわるだけではなく,集団としての学級のリーダーでもある
どのような学級になるかには, 教師のリーダーシップのあり方が関連するといわれている
専制的リーダー
集団の攻撃性が高まる
リーダーに対しては依存的·受動的な態度となる
作業能率はリーダーがいるときのみ高く, いないところでは低いことが示されている
民主的リーダー
仕事への動機づけが高まる
メンバー間の関係も友好的
作業能率もリーダーの在不在にかかわらず高い
放任的リーダー
集団の仕事への士気は低い
作業の質量ともに低下した
成果量に関しては専制的リーダーの集団が多い
課題が容易である場合は, 民主的リーダーの方がよく, 困難な課題である場合は専制的リーダーがよいことも見出されている(三隅・吉崎・篠原, 1977) https://gyazo.com/e99aebf338ac9403f771c7da9a5e48e3
児童生徒の学習活動を促進したり, 生活上のしつけを行ったりすることがP機能を有する教師行動
一方, 児童生徒一人一人の気持ちや学習准度に配慮し、公平に対処して児童生徒の緊張解消に努めることがM機能を有する教師の行動となる
三隅・矢守(1989)
この2つの次元に基づき分類
PM型: PM両機能とも強い
Pm型: P機能が強くM機能が弱い
pM型: p機能が弱くM機能が強い
pm型: 両機能とも弱い
学級の「授業満足度 学習意欲」「学級への帰属度」 「学級連帯性」 「生活・授業態度」について検討している
すべてにおいてPM型が最も高く, pm型が最も低い
Pm型は「学級への帰属度」 「生活・授業態度」についてはPM型に次いで高い
pM型は「学級連帯性」「授業満足度·学習意欲」においてPM 型に次いで高い
https://gyazo.com/33131b88da730bcca1f1a975d0f3a381
学級集団のリーダーとしての教師
学級集団内の児童生徒の人間関係を十分把握した上で
学習や人格形成という目標達成に関する機能と集団の維持に関する機能とを同時に遂行することが求められている
教師のリーダーシップが集団としての子ども達に与える影響もまた大きいことを忘れてはならない
2-3. 学級風土
各学級には全体的な雰囲気がある
「A組は明るいクラスだけれども, C組は真面目なクラス」
学級風土と強い関連性をもつ教師の要因
教師の受容・共感的な対応
親近感がもてる特性
客観的な視点からの対応
教師の自信のある態度
特に, 客観的な対応と自信のある態度は
学級集団形成当初にはあまり影響力はもたないが,
学年が終わるころには子どもがお互いを認め合う学級風土形成に大きな影響力をもつことが指摘されている
暖かい情緒的な雰囲気ばかりを追求する学級では学力向上や学習目標の達成はみられなかったとの報告もある(栗山, 1992) 受容的な学級風土が子どもの学校生活を支える上で大切であることは確かだが
子どもの実態を踏まえた統制と受容のバランスが肝要となることがうかがわれる
3. 教師に求められる資質能力
3-1. 教師をめぐる状況
教師の役割は質量両面において拡大を続けているが, 背景には次のような教師をめぐる状況の変化が指摘されている (中央教育審議会, 2006) 社会構造の急激な変化
知識基盤社会の到来やグローバル化, 情報化, 社会全体の高学歴化等がかつてないスピードで進んでいる 既存知の継承だけではなく, 未来知を創造できる人材の育成が課題となった
こうした力を備え, たくましく生き抜く基礎を子ども達に育むべく,教師は高度な専門的知識・技能を身につけ, 時代の変化を踏まえて常に向上し続けることが求められるようになった
学校や教師に対する期待が高まっている
家庭や地域社会の教育力の低下を受け, 従来家庭や地域が担ってきた教育機能が学校や教師に持ち込まれ, その責任が重くなってきている
学校教育における課題が複雑·多様化している
多様な課題が学校に押し寄せている
子ども達の学習意欲低下や社会性・コミュニケーション能力の不足
いわゆるネットいじめを含むいじめや不登校・暴力等の問題
特別な教育的ニーズのある子ども達への支援
保護者や地域社会との連携のもとに社会に開かれた学校づくり等
退職者の増加に伴い教師の数と質を確保しなければならないという現状
かつては無条件に尊敬の対象であった教師に対する信頼は揺らぎ
同僚性の希薄化が進む中で教師たちは多忙を極め
教師をめぐる状況は, かつてないほど厳しいものになっているといえる
3-2. 求められる資質能力
教育は人間を対象とし, 人格の完成を目指し,その育成を促す営み
その責務を果たす上で, 教師という職業に専門性が求められることはいうまでもない
使命感や教育的愛情等,従来教師として不易とされてきた資質能力に加え、
これからの時代の教師に求められる資質能力
1. 自律的に学び続ける姿勢をもち自らのキャリアステージに応じた資質能力を生涯にわたり高めていく力, 適切な情報収集 活用能力, 知識を有機的に結び付け構造化する力
2. 教育現場の新たな課題に対応できる力である
3. チーム学校の理念のもと,多様な専門性をもつ人材と連携·協働する力 チーム学校における教師の役割については次項において触れる
高度専門職業人としての教師に求められる資質能力は, 以前にも増して高いレベルのものとなっていることがうかがわれる 3-3. 「チームとしての学校」の中で求められる教師の役割
背景として
我が国の教師たちの職務が幅広く多岐にわたっており勤務時間も長いこと
学校には諸外国と比して専門スタッフの配置が少ないこと
チーム学校は3つの視点に沿って学校改革を行い、
専門性に基づくチーム体制の構築
学校のマネジメント機能の強化
教師一人一人が力を発揮できる環境整備
家庭や地域·関係諸機関とも連携して子ども達の成長を支えていくというもの
1. 今後に期待をもつこと
2. お互いのやり取りを促進するために前もって準備をしておくこと
3. 多様なものの見方を理解すること
4. 情報を集めるために質問すること
5. 人の話を聞くこと
6. 意図していることがきちんと相手に伝わるように明確に話すこと
こうした技法とともに, 教師たちは, 学級のリーダー的な役割をとるだけではなく,チーム学校の一員として他職の専門性に従うフォロワーシップを身につけることも忘れてはならない 4. 教師に求められるもうひとつの資質能力
4-1. 疲弊する教師たち
「公立学校教職員の人事行政状況調査」
文部科学省が毎年実施
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教職員の勤務状況を把握しているが, 2007(平成19)年以来, 精神疾患を理由として休職する教師数は5000人前後を推移している
この数値を多いと考えるか少ないと考えるかは難しいところ
2017 (平成29) 年度の教職員の病気休職者約7800人のうち5000人が精神疾患による休職であるという事実に鑑みれば,やはり深刻な事態
4-2. 教師のメンタルヘルス
教育理念や指導方針の違いに起因する
特に授業以外の雑務の多さに起因する
努カが認められていないと感じる
自分の指導方針に自信がもてず適性や力量に不安を感じる
不登校等問題行動のある児童生徒の指導がうまくいかないと感じる
教師ストレスの原因
その多忙化が指摘されることが多いが
教師にとっては児童生徒・保護者・管理職・同僚との人間関係の方が多忙よりも危機を招きやすいとの指摘もある(新井, 2014) ストレスが高じて燃え尽きてしまう現象
教師にとって離職につながる大きな問題となっている
背景に先に挙げたような職務内容や職場環境要因のみならず多様な要因がある(落合, 2009) 学校内外の環境の歴史的な変化にかかわる要因
「初任者でも一人前」
教師の仕事にはこれだけやれば終わりという境界もなく、その範囲も無限に広がっている
特に, 教師文化の構造に関しては
教師のストレスやバーンアウトは行政としても看過できないものとなっており, 教育現場の働き方改革が進められ
多忙化のみならず, 職場環境や教師文化といった多角的な視点から教師のストレスを考察する必要がある 同時に、自らのストレスをコントロールする力も教師には必要である
4-3. 教師のレジリエンス
1950年代より,一般にはトラウマとなるような危機を経験してもその後適応的に生活する人の存在から注目された概念 レジリエンスの概念的定義は統一されるには至っていないが、
生まれもった資質的側面と後天的に獲得可能な能力としての側面の2つから成るという考え方もある(平野, 2015) さまざまな新たな課題のもと教育実践を展開する教師たちにとって、ストレスにさらされつつもその都度回復し、職務を全うする資質
2017 (平成29)、 2018 (平成30) 年改訂の学習指導要領においては,「主体的・対話的で深い学び」の保障が謳われている
時代の要請とはいえ教師たちには次々と新たな課題が提示されている
予測不能な時代において、今後備えるべき新たな資質能力といえる